いい仕事とは?

 2020年4月8日に現在参加している作品『MoveMen』がCussetで初演を迎える。会場はリヨンから近郊電車で1時間半ほどの街Vichyからバスに乗り継いで隣の町。2015年にフランスに移住してから、4年間3度目の公演での滞在になる。

 今回のパフォーマンスの肝は「動き」のみ。Akiko L’amoureuseのようなストーリーも、Tchai-kov-skiのような音楽ありきのテーマではない。これまでダンサー達自信がまっすぐ向き合ってきた【身体で遊ぶ】という、シンプルかつ率直な進化が問われる舞台だ。

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からだをつかってあそぶことが使命

 ダンサーであれば誰でも、舞台で最高のパフォーマンスをすることが究極の目標なのは間違いない。しかし、実際にはダンサー、振付家、劇場の意向など、それが”仕事”である以上はさまざまな問題と直面することになる。

ここでいう「仕事」とは何を示すのか。ダンサーとして”最高”の基準となるベースはどこで測るべきなのか。そこには当然、ダンサーとして生活をするための報酬や給料、仕事とプライベートの時間配分、クリエイティブの基準など、国、年齢、性別、個々人の歴史などが大きく反映される。

つまり、一つの物差しでは測ることは到底できない。

フランスに仕事の拠点を移してから4年余り、「クリエイティブの質、人の質、仕事の質 」という日本の中だけは知り得ないクオリティの数や質の違いに文字通り踊らされながら進み続けてきた。

2015年10月に渡仏し、フリーランスとして初の出演となったAkiko L’amoureuseはフランス国内で多くのツアーを経験させてくれた。フランス人が日本の文化に深い敬意と探究心をもって描いた絵本を題材に、日本人の舞踊家が中核を担う作品は多くの子供の心を掴んだ。

当時フリーランスになりたてで、劇場専属のダンサーの経験しかなかった私にとって、フランスの新たな地で出会うクリエイターとの仕事はこの上なく刺激的で、個人の舞踊・アーティストとして真価を問われる機会となった。

作品自体はすでに出来上がっていて、私はただ与えられた振り付けと役を叩き込むことだけに集中するだけ。それでも、劇場と芸術監督の名前にぶら下がる甘えのきかない勝負ができる場が貰えるだけで本望だった。

 同世代のダンサー3人で45分ほどの作品を踊るのは、珍しいことではない。しかし、時間や場所、予算の制約など、リハーサルにおけるフラストレーションを分かち合うなかで、日本とフランス文化のギャップや時代の違い、表現に対する向き合い方は3者3様、言葉で理解できる部分は少なかった。

JINは2015年に独立し、Soleil Liquide(液体の太陽)を設立した。劇場専属から個人の小さなカンパニーやフリーランスになる要領は、基本的には変わらない。

劇場という「組織」の守りがないと、大規模な予算、スタッフ、その他カンパニーの運営自体が必要最低限にも届かないのは日常茶飯事だ。個人でかつてのような組織立った活動は不可能だ。

そこで、まずはフランスという拠点に外国人として住み込み、税金を支払い、長期VISAの取得を目指して舞踊家としてクリエイティブなプロセスに関わる方法を探ることにした。

からだをつかって遊ぶこと。それは幼少期から実家のアトリエで芸術家だった父の影響で触れてきた”アート”と変わりない。もちろん、ダンスのスタイルも世代も変わっているけど、やっていることには変わりない。

全くのゼロからレッスンを受けられるスタジオを探して、リハーサルできる環境を整えて、振付家にコンタクトを取って、フェスティバルやパフォーマンスの機会を探る。

フランスの長期滞在ビザのコンペタンス・タロン(現パスポート・タロン)の申請のために県庁にいきながらクリエーションにいくので、そこは新しい体験で苦労もあったが、からだをつかって遊ぶことが唯一の武器だと考えてるし、普段からそこに没頭してる。

結果的に仕事を少しずつ貰えて、滞在許可が下りたので、からだをつかって遊びたい人と集まって一緒に仕事をすることができている。