0→1をつくるプロダンサーJIN

今までと真反対のキャラクターを楽しんで演じ、400人の観客に「また見たい」と思ってもらうには?

こんにちは。今回は、東京のダンスの専門学校にかよう19歳のダンサー志望の女の子から受けた、こんな相談に答える内容です。

「どうすれば、より深い表現が出来ますか?」 「振り付けに、身体が追いつきません…」 「今までとは“真反対”の踊りがしたいです」

私も同じような悩みに頭を抱えた時期があったので、よく気持ちが分かりますし、早く成長してほしいと思いました。

フランスの芸術学校のディレクターと仕事をした時、ヨーロッパに古くから伝わる『神話の法則』と出会ったので共有します。 これを読めば、イメージを体現する強い基礎力が身につきます。

そもそも、『神話の法則』ってなに?

そもそも『神話の法則』とは、世の中のダンス作品のほぼ全てに使われている王道のテクニックです。たとえば、美女と野獣や、眠れる森の美女、ハリーポッターに到るまで、映画も小説も全てこのテクニックを元にストーリーをつくっています。

『神話の法則』とは、つまり観た人が必ず感動してしまうストーリーのことです。 

私たちはこれまで、様々なストーリーやエンターテイメントを見てきましたが、感動したり、共感したりする物語には、実は同じストーリーの型があるんです。 さらにいうと、毎週日曜の朝にテレビでやっている戦隊モノも、アニメのシリーズも、毎週、毎回、おなじストーリーが使われています。

そう思うと、私たちは生まれたから今この瞬間まで、何百回、何千回とこの『神話の法則』に無意識に感動しているんですよね。 なのに、飽きずにまたみてしまう。感動し続ける。

ジブリもワンピースも進撃の巨人も、ドラゴンボールも、ディズニーのあらゆる作品全てが、みーんな神話の法則を使ってるんです。 登場人物や、背景が少し違うだけなのに、それぞれを『オリジナルで個性がある』と受け止めてしまう。それくらい人間の脳って単純なのかもしれません。

だからこそ、神話の法則のパワーが信じられるわけです。 スタジオレッスン→ゲネプロ→本番と、ステップアップして上達し、ライバルよりも一歩先にいきたいなら、ぜひ実践してほしいです。

神話の法則

では、実際に『神話の法則』をみていきます。神話の法則で使われる、物語=ストーリーの流れはこうなっています。

  1. 日常
  2. 小さな決意
  3. 失敗の日々
  4. 刺激的な出会い
  5. 小さな成長
  6. 飛躍の時
  7. 未来への誘い

少し分かりにくいかもしれませんが、まとめると『起承転結』って考え方です。これを少し丁寧に、細かく噛み砕いて表現に落とし込みます。

この型には、心理学的に『人間の心に響く』ように出来ています。神話の法則を使ったストーリーの捉え方ができれば、シーンごとに自分がどう演じるべきか?何が求められているか?が明確になります。 すると、自ずと表現力が向上していくわけです。

では次に、実際に神話の法則を使った例をみながら、あなたも自分の出演する作品に置き換えて想像してみてください。 今回は、私が出演した8歳ほどの子ども向けの作品を取り上げます。

アキコの恋人

あるところに、アキコという可愛らしい黒髪の女の子がいました。 ある夜、アキコは森で優しい同い年の少年、タキジに出会います。

2人はすぐに仲良くなりました。 ところがある朝、タキジはアキコにこう言います。 「僕は森に住む魔女に、悪い魔法をかけられたんだ。だから、太陽の光を受けると石になってしまう」 そう言い残すと、タキジは暗い森の中へ帰っていきました。

アキコは寂しさのあまり、毎日のようにタキジへ会いにいきますが、彼の心は変わりません。 なぜなら、石になりたくないからです。 アキコはどうしてもタキジに会いたくて、森の長老である大木に話をしました。すると、 「魔女に話をききなさい」 とアドバイスをもらうことができました。

そして、明子はついに魔女に話をききました。

「あはは!魔法なんてかけちゃいないよ」
「いたずらを怒っただけなのさ」

魔女でなく、優しい笑顔のおばあさんだったのです。

それを聞いたアキコは、タキジへ伝えに向かいますが、彼は聞こうとせず、森の奥へと入っていきます。 しばらく、アキコはタキジに会えません。 1人で寂しく、時間が過ぎるのを待ちました。

2人はそれぞれ、自分の気持ちを深く、考えました。

しかしある日、アキコが1人で遊んでいると、なんとタキジが森から笑顔で胸を張り、歩いてくるではありませんか! 「また一緒に遊ぼうよ!」 2人はまた、明るい陽の光の下で、たくさん遊ぶことができました。

そして、明子と多喜二は、お互いの眼を見つめ、キスをしました… めでたしめでたし。

さすがフランス、最後にはキュートなオチがあります。 この「アキコの恋人(仏:Akiko l’amoureuse)」という、フランス人絵本作家が描いたストーリーを『神話の法則』に従って、ひとつひとつみていきましょう。

日常

あるところに、アキコという可愛らしい黒髪の女の子がいました。

まずは冒頭、登場人物の紹介です。ここでお客様に、

  • 今がどう言う状況なのか?
  • 登場人物は誰なのか?

をイメージしてもらうことが重要です。 ストーリーは、抽象的な表現をしすぎると、お客様が混乱して眠くなってしまいます。例えば、

  • 舞台中央で、前を見て立つ。

ではなくて、 大草原の真ん中で、遠くの景色をみる。 鳥の鳴き声や川のせせらぎを聞いて、 赤い花を見ながら歩いていく。 というかんじで、しっかり具体的に身体を使う。

そうすることでよりお客様の頭の中に情景をイメージしてもらい、共感を呼び起こしやすくなります。

小さな決意

2人はすぐに仲良くなりました。

シンプルですが、人の感情こそがストーリーを伝えます。 キャラクターの性格や、人柄(強い、優しいなど)を意識して、登場人物がこれからどんなストーリーを展開していくのか?という疑問をお客様に投げかけます。

失敗の日々

アキコは寂しさのあまり、毎日のようにタキジへ会いにいきますが、彼の心は変わりません。

ここで、アキコは挫折と絶望に襲われます。ラブロマンスの、いちばん刺激的で、狂おしい、おいしいシーンかもしれません。 何をやっても上手くいかず、失敗して、虐められる。そんな連続で、お客様はグイグイとストーリーにのめり込むようになります。

刺激的な出会い

アキコはどうしてもタキジに会いたくて、森の長老である大木に話をしました。

ここで、1人で悩んで答えを出すことができないアキコが、小さな成長のカギとなる出会いをします。 挫折を経験したことで、自ら変化を起こすキッカケに気がつきます。

このシーンの重要性は、いかにその出会いが刺激的かを伝えることで、難しいシーンがお客様の心にすっと入る感動のストーリーになります。

小さな成長

そして、アキコはついに魔女に話をききました。

いよいよクライマックスへのスタートラインをきるのが、小さな成長です。 日常生活であれば、刺激的な出会いがあっても”1週間後には忘れる”ところですが、多くの場合ここで登場人物の誰かの心に変化が起きて、小さな成長を迎えます。 このストーリーでは、ヒロインであるアキコです。

そのキッカケを与えたのが、アドバイスをくれた森の長老である大木だったんですね。 変化をただの”日常”として終わらせずに、新たな道を歩くためのステップとして演じ分けていくと、クライマックスへ向けて盛り上げていくことができます。

飛躍の時

ある日、アキコが1人で遊んでいると、なんとタキジが森から笑顔で胸を張り、歩いてくるではありませんか!

失敗→出会い→成長というストーリーを経て、ようやく辿り着くのが、この「飛躍の時」です。 『神話の法則』においてクラマックスで飛躍を遂げるのは、ほとんど”主人公が自分から行動を起こした”というパターンです。

今の生活に満足して、悶々と過ごしていても飛躍の時は訪れません。あくまで、行動を起こした結果として得られる報酬として、飛躍を遂げることができる。というのが鉄則です。

ここを曖昧に表現してしまうと、まったく感動のない、400人の客席の半分から「グーグー…」と、いびきが聞こえるラストになります。

未来への誘い

そして、アキコとタキジは、お互いの眼を見つめ、キスをしました…

クライマックスを迎えても、ストーリーをお客様の心に残し、

「また観たい!!!」

と思ってもらうには、クライマックスのあとに、あるオチをつけます。振付家にもよりますが、このあともストーリーは続いていく…という期待や、理想の続きをイメージさせます。

スタジオジブリの宮崎駿監督が用いる手法も、これと同じです。

最後に

長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今回の記事では『神話の法則』について詳しく解説し、実際に私の舞台を例にあげて見ていきました。

このように、起承転結をうまく使ってストーリー全体の踊りわけをすることで、お客様の心を揺さぶり、感動を生み出し、また見たいと思ってもらえます。

ぜひ今回のテーマを頭に入れて、これからのスタジオ・リハーサルに応用していただけたら幸いです。